あの時ヒロインだった
主人が会社の飲み会などに行くと、帰りは私が車で迎えに行くことになる。
ある日のこと、泥酔した夫を乗せ、車を走らせていた。助手席でシートを倒しすぐに寝てしまう夫。
ゆるいカーブを過ぎたところで、何か動物が轢かれているのに気がついた。慌ててハンドルを切り、避けることができた。
大きな 犬? 何、いまの
死んだ動物は踏まれても痛くないだろう
でも、もし探している飼い主がいるのなら、
あまりにも無惨な姿は見たくないだろう
どうしても気になり、もと来た道をひき返す
とにかく 路肩へ
幸いビニールシートがトランクにある
近づいてみると、太い尾っぽの狸だった
シートを広げ近寄る。
もう完全に息はないようだ
買ったばかりのロングコートを汚したくない
シートをかぶせ、脇の辺りを抱える
ズシリと重く、ぐんにゃりしているので
怖くて へっぴり腰になる
とにかくコートは汚したくない と
腕を伸ばし狸を掲げるように横歩きをして
なんとか路肩の植え込みに置くことが出来た。
車に戻ると寝ていたはずの夫が眼をランランとさせている。
おまえ、スゴイ!すごいな! と夫
なに?
①動物の死体に触れるなんてすごい
②なんて優しいんだ おまえにしか出来ないよ
どっちのすごい?
②番の可能性が高いと判断し
だって、また轢かれるのは可哀想だものと返事しようとすると
夫「狸を持ち上げた途端に狸の目玉やら内臓やらがドロッと落ちて、お前 それを引きずりながら 変な格好で歩いて、、
ムフッッムフフッ
スプラッター映画の主人公みたいやったぞ?
むひゃひゃひゃひゃ」
ヘッドライトに照らされた私は
あなたの目にそんな風に見えてたんですか、、
とにかくすっかり酔いが覚めたみたいで良かったね。